十三鬼穴考04

 前回聚英に関して触れたので、その続きとして聚英に書かれている十三鬼穴に関する記述をいくつか抜粋し、その内容を見てみたいと思う。まず、聚英の四巻から二つ。

鍼灸聚英4巻下
宋,徐秋夫-鬼病十三穴歌
人中,神庭,風府始
舌縫,承漿,頬車次、
少商,大陵,間使連、
乳中,陽陵泉-有据、
隠白,行間-不可差、
十三穴,是-秋夫置。 

 この徐秋夫という人物は中国のサイトで調べてみると南北朝時代山東省の現在の南京の医家の人で多くの名医を排出した医家の出身だという。その息子も医家だと記載が有る。
 http://www.tcm100.com/ShuJuKu/GuDaiYiJia/zzYiJia1341.htm
 何かと鬼に縁がある人らしく、南宋時代の医療と民間伝承を記録した「医説」から抜粋された「医談抄」に登場し、そのエピソードとして鬼に治用を懇願された話が掲載されている。このとき、鬼には「実体」が無かったために鬼の体として人形をつかい鍼を打ったと記録されている。詳細は以下を参考にされたい。
 http://www.hum.ibaraki.ac.jp/mayanagi/paper03/shohyoIsetsu.html

医談抄 (伝承文学資料集成 (22))

医談抄 (伝承文学資料集成 (22))

 http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1350328.shtml
 このエピソードからも当時の「鬼」の観念が垣間見る事が出来る。この当時の鬼は観念的なものという範疇から脱していない。現在のような異形のものではなく、人と交わる事の出来る、それでいて人と異なる、実体のないものという観念が定着していたと考えても良さそうだ。
 聚英に残されている歌賦の場合は、はっきりと鬼病と書かれているように、鬼の治療ではなく精神疾患を対象とした治療を歌っている。十三鬼穴歌との違いを見て行くと面白い。
 大成の十三鬼穴歌で扱われている経穴は纏めてしまうと以下のようになる。

1 人中 鬼宮
2 少商 鬼信
3 隠白 鬼壘
4 大陵 鬼心
5 申脈 鬼路 火針
6 風府 鬼枕
7 頬車 鬼牀
8 承漿 鬼市
9 労宮 鬼窟
10 上星 鬼堂
11 会陰(男)、玉門頭(女) 鬼蔵
12 曲池 鬼臣 火針
13 舌下中縫 鬼封 刺出血
 
 徐秋夫の鬼病十三穴は以下の通り。

1 人中
2 神庭
3 風府
4 舌縫(舌下中縫)
5 承漿
6 頬車
7 少商
8 大陵
9 間使
10 乳中
11 陽陵泉
12 陰白
13 行間

 申脈と曲池が無いのは、火針の使用が敬遠されているからと考えられる。確かに、精神状態の不安定な患者に対して火であぶった針を使うのはリスクが高い。その点を考慮すると、徐秋夫の配穴の方が実用的だと言える。同様に、会陰(女性患者だと名称が変わり玉門頭となる)も、場所が場所だけに使用するのは困難だろう。そういった穴をいくつか入れ替えているのが特徴と言える。
 とはいえ、乳中を使っている辺り現在の鍼灸への応用は困難な部分もある。
 個人的に注目したいのは、前回でも触れた間使の扱いだ。
 以下に聚英における十三鬼穴歌を抜粋する。大成と比較してもらいたい。
 

孫真人,十三鬼穴歌
百邪,癲狂-所為病、鍼有十三穴,須認。
凡鍼之体,先-鬼宮、次鍼-鬼信,無不応
一一従頭,逐一求、男従左起,女従右。
一鍼人中-鬼宮停、左辺下鍼,右出鍼。
第二,手大指-甲下、名-鬼信,刺三分深。
三鍼,足大指-甲下、名曰-鬼壘,入二分。
四鍼,掌後-大陵穴、入鍼五分-為鬼心。
五鍼,申脈-名鬼路、火鍼三下,七饪饪。
第六,却尋-大杼上、入髪一寸,名-鬼枕。
七刺,耳垂下五分、名曰-鬼牀,鍼要温。
八鍼,承漿、名-鬼市、従左出右,君須記。
九鍼,間使、鬼営上。
十鍼,上星、名-鬼堂。
十一,陰下縫-三壮、女玉門頭-為鬼蔵。
十二,曲池、名-鬼臣、火鍼,仍要,七。
十三,舌頭-当舌中、此穴,須名是-鬼封。
手足両辺,相対刺、若逢狐穴,只単通。
此是,先師-真妙訣、狂猖悪鬼,走-無踪。